インタビュー

国際医療搬送の現場から学ぶ、感染症対策の重要性

訪日旅行客や海外駐在員など、国内外の患者に対応するインターナショナルヘルスケアクリニック。こちらは国際医療搬送を手がけている数少ない医療機関でもあります。
今回は国際医療搬送の第一人者でもある鷲尾美香院長に、医療従事者でも知る人の少ない国際医療搬送とはどのようなものなのか、そして、海外と日本を結ぶ医療サービスを行うなかで、感染症対策や輸入ワクチンに関してはどのように考えているのかについて伺いました。

インターナショナルヘルスケアクリニック
院長/内科医
鷲尾 美香 氏

兵庫医科大学医学部卒業。大阪医科大学第一内科での研修後、同医局循環器グループの研究生として在籍。カナダやオランダの医療現場を経験し、帰国。2012年より勤務医をしながら、国際医療搬送に携わるようになる。エスコートドクターとしての経験を積むなかで、国際医療搬送を専門に扱う機関の必要性を感じ、2017年にインターナショナルヘルスクリニックを開業。経験豊富な看護師やスタッフとともに専門家として国際医療搬送を手がけると同時に、国際医療搬送に関する認知向上活動にも取り組む。

専門分野
 
内科
資格
日本旅行医学会認定医、日本渡航医学会会員、日本内科学会会員、産業医、
ACLSプロバイダー、日本旅行医学会認定留学安全管理者

■島国日本に取り残されていた課題、国際医療搬送に取り組む

― インターナショナルヘルスケアクリニックの特徴をお聞かせください。

国際医療搬送と渡航外来を含めた内科診療を行っているクリニックです。医師はもちろん、スタッフ全員が英語を話すため、日本語でのコミュニケーションに不安を感じておられる外国籍の患者様も多くご来院されています。

― 国際医療搬送とは、どのようなものですか?

国をまたいで医師や看護師などの医療者が付き添いつつ国際移動をサポートする医療サービスです。 本来ならば、現地で治療を終え、健康な身体で帰国するのが理想的ですが、言葉の壁により治療が難しいケースやビザが切れてしまうケース、現地での治療費が高額になるケースや長期療養になるケースなど、母国の病院への転院を希望される方がいらっしゃいます。訪日外国人で搬送される方は年間推計3000人、海外から日本へ帰国される方ですと、さらに多くなるでしょう。

国際医療搬送については、日本では医療者の間でもあまり知られていませんが、欧米では知られており、最近ではタイやシンガポールでも発達しています。

― 日本であまり知られていないのはなぜでしょうか?

国土の広いカナダやアメリカ、オーストラリアなどでは、国内でも飛行機で医療搬送をすることがありますが、日本ではそのようなケースも少なく、島国なので国境や海を超えて転院する例があまりなかったという事情もあるでしょう。

現在、海外で怪我をされた日本人の方が帰国する際には、海外の医療チームがサポートすることがほとんどです。国際医療搬送を行なっている医療機関は、私が知る限りでは、国内には当院を含めて2箇所しかありません。日本の医療チームによるサポートを必要としている方のために、2017年にこのクリニックを開院しました。

― 具体的に、どのような医療サポートが行われるのですか?

ご相談を受けると、まずは患者さんの状態を確認し、飛行機に乗れる時期や保険でカバーできる範囲などを調べた上で、コストを見積もります。ご本人やご家族には概算費用のほか、想定されるリスクもご説明し、改めて、帰国の意思を確認します。

同意をいただき、契約を交わしたら、搬送の準備をしていきます。転院先が決まっていない方の場合は帰国後に治療を受ける病院も探しつつ、飛行機や救急車の手配などを行います。

また、帰国後の治療をスムーズに進めるために、情報の連携も必要です。国が変われば医療制度や使用できる医薬品なども大きく異なるため、通常の国内での転院搬送のような感覚ではできません。日本で一般的な薬を使ってもらえるように現地の先生にお話しすることもありますし、受け入れ先では感染管理をした方がいいなどのアドバイスもします。

搬送当日は現地での最終確認から医師・看護師が付き添います。転院先に無事に受け入れられたのを確かめたら、搬送は完了です。終了後は現地の病院への報告も行います。

■国際間移動が当たり前の時代。地球規模の選択肢を

― インターナショナルヘルスケアクリニックには外来もありますね。輸入ワクチンは外来の方で扱われているのでしょうか?

医療搬送の方で大変な思いをされている方を見ていますので、啓発の意味も込めて外来を開設しています。感染症にならないように、ちゃんと予防接種を打っていってくださいね、と。

高齢で基礎疾患のある方などは感染症にかかると、ガタガタっと体調が崩れてしまいます。けれども、体調管理をしていれば、医療搬送になるような事態をある程度防ぐことはできるでしょう。病身での帰国はご本人の負担も大きいですし、ご家族やお勤め先にも負担がかかります。現地では体調管理にも気をつけていただき、行く前には予防接種を受けて行ってくださいね、とお話しています。

― 輸入ワクチンを使われている理由を教えていただけますか?

外来には日本で働いている外国人の方もいらっしゃいます。海外では大人の予防接種に関する意識も高いため「そろそろ追加接種の時期なので」と予防接種を受けに来る方もいますし、「休暇で東南アジアに行くのでトラベルワクチンを打ちたい」という方もいますね。そういった海外の方からすると、馴染みがあるのは世界的に主流となっているワクチンですから、逆に、国産のワクチンに対して「何それ?聞いたことない」と言われてしまうこともあります。

― 日本人でも輸入ワクチンを希望される患者さんはいるのですか?

輸入ワクチンを選ばれる方は多いですね。たとえば、海外駐在の予定がある方など、2回目までは日本で済ませ、現地で追加接種をする場合もあります。そうすると、世界的に流通している輸入ワクチンの方が利便性は高いですよね。

当院では医療搬送の方でつながりのある病院が各国にあるので、証明書をお渡しして「この病院に行って、これで探してもらえればすぐ分かりますから」とご案内しています。

― 安全面についてはいかがでしょうか?

安全性については、しっかりしたメーカーのワクチンを提供していけばいいので、国産には全くこだわりません。つばめさんがきちんとしたメーカーのものを入れてくれていると思いますので。

― つばめLaboをご利用いただけている理由をうかがえますか?

問い合わせれば迅速に的確な情報を提供してくれますし、品薄になりそうだと事前に連絡をくれることもあり、頼りにさせていただいています。

ここを開院してからなので、まだ2年ほどのお付き合いですが、進化の早さには驚きますね。医師からの要望をすぐに取り入れて迅速にサービスを改善されている印象があります。予防接種を受けに来た方のために常にワクチンを用意しておきたくても、使用期限を考えると在庫をどれだけ持つか迷うので、返金保証プラスというサービスはありがたいです。

― 患者さんのベネフィットを考えると、輸入ワクチンは用意しておきたい?

基本的に、日本の国が承認しているからという目線よりは地球規模の選択肢の方がいいと思うんです。

オランダで治験の仕事をしていた時、日本では日本人だけの治験データがあると承認が早くおりると、大手医薬品メーカーが日本人を集めて治験をしているのを見ました。バリアを高くしていれば安心かもしれないけれど、そのような仕組みでは良い医薬品があってもなかなか日本に入ってこないですよね。だったら、個人的に輸入してでも輸入ワクチンを扱っていいのではないかと思います。

患者さんにとっては追加接種の利便性を考えると、海外で一般的なワクチンの方がいいでしょうし、私どもがはっきりお伝えできる有効期間も日本では短い傾向があるので、コストパフォーマンスで見て、輸入ワクチンを選ばれる方もいます。安全性の面でもデータの量が圧倒的に多いですよね。輸入ワクチンの方が断然、副作用の報告数も通っている検査機関の数も多いですから。

■日本をプロテクトするためにこそ、国境を超えた医療サービスが必要

― これから、海外へ渡航される日本人や日本を訪れる外国人の方が増えていくと、ますます国を超えた医療サービスが必要になりますね。最後に、国際医療搬送に関して、今後の展望を聞かせていただけますか。

日本人の患者さんを搬送できる日本人の医療チームが必要だと考えています。

日本語で相談できる安心感はやはり大きいですよね。海外から日本への搬送を付き添った方のなかには、治療を終えられ、「こんなに元気になりました」と、わざわざ神戸から東京まで挨拶しにきてくれる方もいます。そんな時は医療搬送をやっていてよかったと思いますね。

逆に、日本から送り出す方はどれだけ一生懸命尽くしても、同国の救急隊の方を見た途端、それまでと安堵感が違うんです。同国の人への信頼感という意味で、日本人による医療搬送が当たり前になることが必要だと思っています。

後もうひとつ、受け入れ側の国でサポートできた方がトラブルも少ないという点もあります。送り出す側はなかなか帰国後の治療まではケアできません。現地の病院が治療に使用する麻薬を申請なしで送ってしまい、日本人の患者さんが嫌な思いをしたり、受け入れ病院側が麻薬の処理に困ったりすることもあります。

また、海外からの搬送に伴って、どんな菌が持ち込まれるかわかりません。感染症の持ち込みという観点では、日本側でプロテクトしなくてはいけない。やはり受け入れ側の目線が大事だと思います。

現在は、患者さんにも受け入れ病院にもリスクを説明し、感染症の検査をお勧めしていますが、検査費用がかかるためできないこともありますし、結果が出るより患者さんの帰国の方が早いこともあります。受け入れ病院での感染管理は必須です。

データも揃ってきたので、最近、学会でも発表し始めていますが、その関係でご相談がくることもあります。医療現場でもどうしたらいいかわからずに困っているんですね。最近では、訪日外国人の方を受け入れている病院からご相談を受けることも増えています。

国際医療搬送について一人でも多くの方に知っていただきたいと思いますし、今後、日本にも医療搬送を担えるチームが増えていくことを願っています。

インターナショナルヘルスケアクリニック

港区新橋2丁目10-5末吉ビル3階

診察科
一般内科外来(外国人も対応可)、渡航外来、渡航ワクチン、健康診断、
医療搬送、産業医サポート、学生・渡航者サポート
時間
火曜〜金曜:朝10時 から 12時半まで/午後3時半 から夕方6時半まで
(午後1時 から 3時半まで昼休み)
休診日
月曜日・土日祝
電話番号
03-3501-1330