地域医療ニーズに幅広く応えるために<br> ー 総合診療の一環としてのトラベルワクチン ー

地域医療ニーズに幅広く応えるために
ー 総合診療の一環としてのトラベルワクチン ー

台東区にある同善会クリニックは、赤ちゃんからお年寄りまで幅広い層の地域住民が訪れる、いわゆる町のかかりつけ医です。同クリニックでは小児の定期接種のほか、輸入ワクチンを含む海外渡航前予防接種も行っています。専門のトラベルクリニックではない、地域のかかりつけクリニックで、なぜ輸入ワクチンを扱っているのでしょうか。院長を務める増田先生にお話をうかがいました。

同善会クリニック
院長/総合診療医
増田 浩三 氏

岡山大学医学部卒業。亀田総合病院にて初期研修後、同院血液・腫瘍内科にて後期研修。岡山大学医学部附属病院 第二内科・輸血部・総合診療内科、名古屋大学医学部附属病院 総合診療部助教、医療法人社団プラタナス 用賀アーバンクリニック副院長を経て、2017年6月より現職。医学博士。質の高い外来診療を追求し、総合診療とリハビリテーションの協働による健康寿命延伸を模索しながら、健全なクリニック経営を目指している。

専門分野
総合診療、血液内科、アレルギー科、漢方医学、旅行・渡航医学
資格
日本内科学会認定総合内科専門医、日本血液学会認定血液専門医、
日本プライマリ・ケア連合学会認定医、日本旅行医学会認定医、
日本ヘリコバクター学会H.pylori感染症認定医、日本医師会認定産業医

◾︎トラベルワクチンで対応できる地域の医療ニーズが広がる

― 同善会クリニックの概要をお聞かせください

リハビリテーションを中心として、10年来医療法人社団同善会の外来診療部門を担ってきたクリニックです。私は2年半ほど前に縁あって、こちらのクリニックの院長に着任しましたが、それまではリハビリテーション以外の外来患者は少なく、増患対策が重要な課題でした。着任後、総合診療を掲げて門戸を広げ、リハビリ部門との協働にも注力した結果、現在はかなり多くの患者さんにお越しいただけるようになりました。

― 輸入ワクチンに関心をもたれるようになったきっかけは?

以前勤めていたクリニックで、地域の中高生から、留学に必要な健康診断や診断書を頼まれることがしばしばありました。留学に必要な要項を確認してみると、当時の定期接種のみでは漏れているワクチンが多かったんですね。留学に必要なワクチンの接種も依頼されるんですが、当時は知識不足もあって困惑してしまい、輸入ワクチンを扱っている他院での接種をお勧めすることも多々ありました。そのクリニックに勤めている間、留学を希望する人がけっこうたくさん来院されたので、彼らのかかりつけ医として渡航前予防接種や輸入ワクチンなどを含む旅行・渡航医学を学ぶ必要性を強く感じたわけです。そこで、まずは日本旅行医学会に入って勉強することから始めました。

― 同善会クリニックで、輸入ワクチンを提供されるようになったきっかけは?

総合診療の1つの分野として、また増患対策の1つの柱として旅行・渡航医学にも積極的に取り組んでいきたいと考え、着任してすぐにトラベルワクチンの導入に着手しました。ただ、当初は経営的な余裕がなかったこともあって国産ワクチンのみでのスタートでした。それでも意外と渡航前予防接種にお越し下さる方やお問い合わせ下さる方が多く、この地域にもかなりニーズがありそうだという手応えがありました。輸入ワクチンを実際に手配して、渡航前予防接種として取り扱うようになったのは、昨年の春からですね。外来を受診していただける患者数が増えて、なんとか経営的なゆとりも生まれてきて、やっと始めることができたんです。

― 実際に、始められてみていかがでしたか? どんな人が来られますか?

だいぶ慣れてきて楽しくなってきたという感じでしょうか。私だけでなく、看護師をはじめとしたスタッフの経験値も上がってきていて、問い合わせに対するレスポンスも良くなってますし、接種までの段取りや次回接種の予定の確認など、業務効率もかなり上がってきています。 来院される方は、最初は東南アジアや南アジアへの短期旅行の前という人が多い印象でしたが、今は特に決まった傾向はなく、いろいろな方がいらっしゃいますね。地域の企業から、海外へ派遣する社員の予防接種をまとめて依頼されたこともありますし、近隣に住む留学予定の中高生からの問い合わせも増えています。

◾︎実際に始めてみると意外に低かった、輸入ワクチン導入のハードル

― 輸入ワクチンに対して、当初どのようなイメージをお持ちでしたか?

何も知らないうちは、すごく高価で入手に手間と時間がかかるようなイメージがありました。輸入品だから関税がかかったり、いろいろな手数料がかかったりして、なかなか手を出せないんだろうな、と。でも、実際には思っていたほど高いものではないし、むしろ輸入ワクチンの方がよっぽど安いものもありますね。

― 実際にスタートするまでの経緯をお聞かせいただけますか?

ワクチン自体の値段のほか、輸入にかかわる手数料などでかなり費用がかかるのではないかとか、使用期限切れになってしまった場合はどうするかなどの懸念があり、仲介業者の何社かに問い合わせをしたり、資料を集めたりして比較検討しました。その結果、業者によってかかる費用や、取り扱うワクチンの種類・出荷元が異なっていることが分かりましたし、やはりある程度まとめて購入した方が良さそうだということも分かったので、資金的な目処が立った段階でまとめて購入し、輸入ワクチンの提供をスタートしました。

― つばめLaboをご利用になったきっかけは?

最初の出会いは、毎年出席している日本旅行医学会の会場だったと記憶しています。ホールの入り口につばめLaboのデスクが出ていて、当時初めて見る会社だったので資料をもらいつつ説明を聞きました。当時まだ輸入ワクチン導入の目処は立っておらず、ワクチンが使用期限切れで大量に在庫が発生したらどうしようかという心配が常にあったので、「返金保証」サービスがあると聞いて驚きました。新しそうな会社だったので応援したい気持ちもあって、輸入ワクチンを始める時には最初に問い合わせてみようと思っていたんです。

― ありがとうございます。利用されてみていかがでしたか?

始めるまでには心理的なハードルも多少あった訳ですが、実際に発注してみると印象がかなり変わりました。かかった費用も想像していたほど高くなかったですし、手続きもメールを何度かやりとりするだけで簡単です。で、意外と早く届くんですよね。だいたい2週間くらい待てば届いてしまいます。まさに、宅配便と同じような感覚です。 在庫に関してはいまだに心配がないとは言い切れないですが、幸いなことに割とコンスタントに渡航前予防接種の問い合わせがきて、使用期限前に使い切ることができています。見積の段階で使用期限も教えてくれるので、使いきれそうな見込みも考慮して発注しています。

― これまで取り組まれたご経験から、輸入ワクチンを扱うメリットとデメリットはどのようなものがあるとお考えですか?

あまりデメリットというものはないのではないかと思います。保冷庫を準備してきちんとワクチンを保管したり、定期的に使用期限を確認して追加発注をしたりなどの在庫管理が必要ですが、それほどの手間にはなりません。 あとは、重篤な副反応が起こった時にちゃんと対処できるようにしておかなければとは思いますね。輸入ワクチンによる接種後健康被害では、国産ワクチンと違って公的な救済制度が使えないですからね。 メリットはなんといっても、海外渡航者の現地での健康に貢献できるということですね。渡航前の予防接種では出発までの期間が短い場合に、特に輸入ワクチンを選択するメリットが大きいと思います。たとえば、A型肝炎の場合、輸入ワクチンなら出発前に1回打つだけで1年くらいはもちますし、狂犬病の曝露前接種でも、最短で3週間あれば3回打つことが可能です。出発まで1ヶ月を切ってから相談を受けることも少なくないので、そういう方にも対応してあげられるのはいいですよね。

― これからトラベルワクチンの輸入を検討している医療機関の方へアドバイスがありましたら、お聞かせいただけますか?

まずはA型肝炎や狂犬病などの、ニーズが高いワクチンから始めてみるとよいのではないでしょうか。小児の定期接種を扱えるクリニックなら、十分にトラベルワクチンは扱えるはずです。やってみると意外と難しくないですし、手間や費用もそれほどかからず、トラブルも少ないです。来院される方に、海外渡航に備えたいというニーズがあるのであれば始めてみてもよいのではないでしょうか。

◾︎総合診療医として提案したい、渡航先での健康を守るトータルプラン

― 地域の診療所がトラベルワクチンを扱うことについては、どのようにお考えですか?

東京には専門のトラベルクリニックも多いですが、当院のような地域のクリニックが、総合診療の1つの分野としてトラベルワクチンを扱うというスタイルでも患者さんのニーズをかなり満たせているように感じています。予防接種ばかりで忙しくなり過ぎることも、一般の外来診療に支障が出ることもないですし、地域の診療所が守備範囲の1つとして扱うというのもいいのではないかと思います。
一方、旅行・渡航医学の立場から言うと、海外渡航者には「ワクチンだけが全てではない」ということも知っておいてほしいです。特に大事なのはマラリア対策で、マラリアの場合はワクチンではなく予防薬というものがあるということ。マラリアは日本国内で感染することが今のところないので、こういう命に関わる重大な病気のことを知らない若い人たちも多いと思います。知らなくても無理もないとは思いますが、流行地域への渡航者においては知らなかったではすまない病気です。マラリア流行地域に渡航すると聞いたら、「マラリアの予防は大丈夫ですか?」という話はしてあげなければならないと思っています。 その他では高山病の予防も重要です。南米などの高地に旅行に行って、命からがら帰って来たという話をよく聞きますし、高山病には有効な予防薬があることを渡航者には知っておいてほしいですね。

やはり、「このワクチンを接種したいんですけど」という限定した希望に対応しているのみでは、最低限のニーズしか満たせていないかもしれません。ご本人が渡航先の健康リスクを十分に知ることはなかなか難しいと思うので、総合診療医として、どのような健康問題が起こりうるのかをお伝えし、出発前に対策できることをひと通り提案してあげたいと思っています。渡航先での健康を守るために必要なことをトータルでアドバイスできるような存在でありたいですね。

同善会クリニック

台東区三ノ輪2-12-12

診療科
総合診療、内科、リハビリテーション科、血液内科、アレルギー科、
リウマチ科、漢方内科、消化器内科、循環器内科、整形外科、旅行・渡航医学
診療時間
平日:午前 9〜13時/午後 14〜18時
土曜日:午前9~13時
休診日
土曜日午後、日曜、祝日
電話番号
03-3801-6180