第29回日本外来小児科学会年次集会 vol.2<br/>「ダニ媒介性脳炎ワクチン」

「ダニ媒介性脳炎ワクチン」

イベント
第29回 日本外来小児科学会年次集会
開催日
2019年9月1日
発表者
医療法人社団おひげせんせいのこどもクリニック / 米川 元晴先生

好井先生からダニ媒介性脳炎の現状をお話しいただきましたが、僕はクリニックをしていて輸入ワクチンを扱っているということで、ワクチンの現状やワクチンをどうすればいいかに関して話をしていこうと思っています。

先ほどお話された内容になるので飛ばしますが、ヨーロッパでダニ媒介性脳炎がどれくらいまで出てくるかは、これ(スライド「EU/EEAにおけるダニ媒介性脳炎10万人あたりの性別、年齢別の発生数」)を見ると低い年齢の子供は非常に少なく、基本的には成人が抗原になっています。ヨーロッパのほうで理由が出ているのが、小児に関しては重症者が成人と比べて非常に少なくなっています。それは単に不顕性感染で終わっていることと、生活スタイルからダニに噛まれる機会が、成人や、職業的にそういうことが多い方に比べると少ないからという可能性があります。
これはどういうことかというと、ドイツ南部のほうが非常に多いのですが、ドイツの過去のデータを見ても、小児に比べると20代~30代後半の方が発症数としては多くなっています。年齢とその症状として大きな差ありません。脳炎であったり髄膜炎だったり、非特異的な症状だったりということはありますが、実際に発症してしまった場合には、それなりに症状が出ています。ただ、重症では少ないのですが、後遺症としては小児もかなり(の確率で)ある程度の症状が残っているようです。

では、何歳からワクチンを打ち始めるのかについては、国によって多少違います。多いのは1歳ぐらいからとなっています。ドイツは3歳となっていますが、ドイツに関しては南部の地域に関して早い段階、1歳からやはり打っていくところが多い感じです。それこそ、先ほど定期接種で90%の接種率があるというオーストリアの場合は、早期から接種するためもあるようです。ただ、効果としては1歳からの接種と比べて、7カ月から接種した場合にどうかということは、まだはっきりしたデータは分かりません。通常は1歳以降と考えて判断していただければいいと思います。

これ(スライド「ダニ媒介性脳炎ワクチンの歩み」)は月別のデータですが、ダニに噛まれるということなので冬は少なく、基本的には夏です。夏から秋にかけて多くなっています。

ダニ媒介性脳炎ワクチンは1960年代から開発されています。今の場合、FSMEのおおもとになるものが1976年に販売されています。その後、一部アジュバンドが除去されたようなものが発売されましたが、発熱の副反応が多いということで、再度アジュバントが添加されたものが発売されました。FSMEに関しては一部の国で違う名前で発売されていますが、これは全く同じワクチンです。

1992年、ドイツが認可したものが発売されています。あとはこの2つ(GSK製Encepur、ファイザー製FSME-IMMUN)は製造法が違うだけで、GSKとファイザーのワクチンに関してはほぼ同じ効果と思ってください。
北アメリカに関してはカナダでFSMEが販売されているのですが、アメリカではどちらも認可して販売されていません。アメリカでは基本的に売れていないからなのでしょうけれど、渡航医学としては非常に必要だと思います。
ロシアに関しては別のワクチンを作っています。ロシアのワクチンは小児で特に発熱の危険性が高いことから、一部、小児の適用から削除されています。先程、大きく分けて3つの型があるとしてダニ媒介性脳炎ウイルスが出ていましたが、FSMEはヨーロッパの型を基にして、ロシアのものに関してはロシアの型を基にして作っており、効果としてはどちらに対しても有効効果が出ています。

先ほど、ダニ媒介性脳炎の患者さんで日本脳炎ウイルスの抗体価が上がっていましたが、フラビウイルスで、例えば、ある種の感染をすることで、他の主への感染の予防効果が認められているものもあります。ただし、日本脳炎ウイルスに関しては、ダニ媒介性脳炎ウイルスの交差反応が出てはいても、これは交差防御にはつながってはいません。ですから、日本脳炎の抗体を持っていますからとか、日本脳炎ワクチンの接種歴があったからといっても、ダニ媒介性脳炎を防げるかということは全くありません。

先ほど、ドイツが3歳から推奨となっていましたが、これは小さい子である程度熱が出る確率が高くなります。ただ、熱は出ても、(日本脳炎ワクチンでも10人に1人は熱が出ますけれども)通常2日以内には熱が下がることと、大きな副反応として深刻なものは認められていません。

ロシアの製剤に関しては、発熱のケースがかなり高い方も多くなってくるのですが、通常日本でいるウイルスで輸入ワクチンを使っている方施設に関しては、ロシア製のウイルスの型をダニ媒介性脳炎ワクチンを使っている方施設はまずいないので、そこは心配ないかと思っています。

当院としては子供と成人のワクチンを使っている中で、場所柄、僕のクリニックにはロシア人の患者さんが結構います。北海道とロシアはつながりが結構ありますので、そうするとロシア人の方は、夏は1~2カ月国に帰りますと、向こうでキャンプしますよ、という方になんかはワクチンを打っていただかないといけません。ですから、そういった意味で、一部ロシアに行く前に行かれる方、ヨーロッパで山歩きや山登りをしたり、ヨーロッパで芝キャンプするという方を中心にワクチンを打っていました。

ただ、北海道でニュースが出てからは、特に、好井先生先が先ほどおっしゃっていた、札幌近郊のアライグマで20%くらい抗体が出ていた公園があります。その公園というのは、実は札幌市民が非常によく行く公園なんです。僕もたくさん行っていました。その公園にはテニスコートが20面ぐらいあるので、札幌近郊、北海道で大きなテニス大会があるとその公園になります。僕も子供がテニスをやっていたのでよく行っていて、子供がテニスボールをポーンと打つと林の中に入っていき、大人が取りに行くんです。皆、夏でテニスの会ですから、子供も親もたいてい短パンですよね。そうしたら、いくらでもその公園でダニに噛まれます。好井先生から初めて聞いた時には怖くなりました。そのことを知らず、よく行っていたなと思って。

また、北海道のキャンプ場はほとんど無料なので、多くの方がキャンプに行きます。そうすると、この報道があってから、去年からお子さんと一緒にワクチンを打ちたいという方が非常に増えまして、今年5月くらいからほぼ毎日、平均すると1日1~2人希望者が出ています。1シーズンで結構な数で、しかも、ダニ媒介性脳炎ワクチン自体が、北海道内でも札幌の3カ所でのみの接種となっており、小児も積極的に接種を行っていたのは当院のため、北海道中から希望者の方が電話してきます。北海道は広いですので、北海道中といっても、道東から僕の所に行くのにだいたい車で6時間はかかります。けども、皆さんうちに来るんですよ。それだけかけても。

本当はいろいろな所で打てるようになって欲しいです。結局、北海道内のいろいろな所でウイルスが分布しているだろうと。小児に関しては、恐らく不顕性感染での発症、発症している方はあまりいないだろうと思いますが、ただ、子供だけではなく、親が一緒にキャンプをしていますから、今年もこのようにしている方でキャンプに行ってダニに噛まれましたという方が相当いました。皆さん、できるだけ(ワクチンを)打ってねと。

今までは、ただ職業として山に入っている方や農家の方など、そういった方が発症するとされ(ワクチン接種を)推奨されてきましたが、今後は、道内でキャンプをする方だったり、公園も含めて草むらに行ってダニにかまれる可能性があります。幼稚園なんかでは、林が裏にあって、そこで子供たちを遊ばせる園もあります。そうするとやはり結構(ダニに)噛まれてきます。そういった所も、やはりできることならば皆ワクチンを接種してほしいなと、成人含めて推奨しています。

今後、道内で生活する方に関してはどうすればいいのか。今までと同じように、ロシアやヨーロッパに行かれる方、キャンプしたり山登りをしたりする方はそうですけれども、それだけではなく、例えば先生方でも、釣りが好きな方では、もしかしたら北海道に釣りに来られるかもしれない。そういった時だったり、山登りが好きで北海道の山を登りたいと、そういった方であれば、もちろん(ダニに噛まれる)機会は全然出てくると思います。ですから、できることならそういった方もワクチンを接種してほしいなと思います。

大きい病院や大学であれば、たくさん人に打てます。(輸入ワクチンは)100本輸入しても3本輸入しても輸送料5万円は変わらないんです。100本輸入して5万円だったら1本あたり500円です。
2本輸入して5万円かかったら1本あたり輸入料は2万5000円かかってしまう。そうなれば患者さんはすごく高いお金を払わなくてはいけません。そういう意味で、輸入ワクチンを希望する方が少ない場所では数が多く頼めません。残ったらどうしようと。期限があるので、期限が切れたら病院の負担になってしまうんですね。
そういうこともあって、今回僕のほうでお世話になっている、今回講座をしてくださっている株式会社つばめLaboさんには、非常に僕が助かっている「返金保証制度」というのがあります。年間5400円の保証金を払うと、その1年間に輸入したワクチンの期限が切れてしまった場合、年間50万円まで保証してくれています。ある程度まとめて輸入して、もしどうしても余ってしまった場合は、そういった保証制度を使うことで、患者さんや病院に対する負担を少なくワクチンを打つことができます。そういう形が導入できたことで、小規模なクリニックでも、少しの輸入ワクチンに対する支給になりますから、皆さんが積極的に参加できるようになり、あとは最終的にはもちろん患者さんがそういった恩恵を受けて、安くワクチンを受けて、発症する方が少なくなってくれたらいいなと思っています。

最後に、今回、日本外来小児科学会の事務局さんに承諾を取りまして、来年の6月に札幌で日本小児科医会総会フォーラムを開催します。僕も実行委員の一員として準備を進めています。その紹介のPR動画を見ていただけたらと思います。

===動画上映===
来年の6月、北海道は観光にちょうどいい時期になります。暖かくなってきます。ダニも出てきますので、もし(北海道に)来られて、観光であちこち行かれる方は、ダニ媒介性脳炎ウイルスを打ってから来てください。以上になります。

演者
米川 元晴先生
医療法人おひげせんせいのこどもクリニック
専門
小児科
資格
日本小児科学会(専門医)
北海道小児科学会 常任理事
札幌市小児科医会 理事